岡本かの子「快走」

 今年も大学入試センター試験の日は寒く
 今朝は庭や屋根
 それに車も雪を積んでいた

 朝方はまだ雪が舞っている

 こんな日に試験とは受験生の皆様には
 ご苦労なことです
 この先にはきっと貴方の春が待っていると
 信じたいですね

 国語の問題
 岡本かの子さんの小説
 「快走」が全文掲載されている
 何とも清々しい文章だが
 受験生にとってはその余韻を楽しんでいる
 場合ではなかっただろう

 「おほほほほほほほほほほ」
 「あはははははははははは」と
 主人公の両親が娘のことも忘れて
 声を立てて笑い合った
 で終わるこの小説の見事さ

 一体いつの時代の作品だったのだろう
 1938年というから
 昭和13年
 間違いなく戦前の作品であるのに
 この文体
 明るく軽やかで 爽やかな表現

 「令女界」というから
 当時発行されていた雑誌なのだろう
 その12月号に掲載されたのが初出である

 岡本かの子さんという作家
 1889(明治22)年に川崎市の大地主で
 代々幕府御用商であった大和屋の長女として
 生まれている

 お兄さんの友人に
 谷崎潤一郎や和辻哲郎ら「新思潮」の同人がいて
 家に出入りしその刺激を受け
 「明星」に短歌を発表するようになった

 漫画家の岡本一平さんの求婚を受け結婚したが
 放蕩三昧 家も没落しはじめ
 自殺を図ったり
 「青踏」に参加し歌集を出版したり
 仏教に帰依したりと
 波乱万丈の生活を送ったのち
 1939年に急死している

 「絢爛たる感情とナルシズムの濃い」作品
 「旧家にまつわる業と女性のかなしさを
 仏教的無常感と江戸情緒
 西洋感覚で豪華絢爛に織り上げた」作品
 と批評家に形容される作品を
 四年の間に書き綴り
 亡くなったという

 「旧家が産んだまことにユニークな
 耽美的 仏教的神秘的なナルシズムの女流文学」
 文芸評論家の奥野健男さんはそう表現している
 (「現代文學風土記」昭和43年 筑摩書房) 

 この「快走」という作品は
 それらとはまた違った趣の作品だ

 “誰も見る人がいない・・・よし・・・
 思い切り手足を動かしてやろう・・”なんて
 この主人公の心情

 “ーほんとうに溌剌と活きている感じがする”

 “毎日窮屈な仕事に圧えつけられて暮らしていると・・”と
 この駈足に挑戦し成し遂げたことで
 “ーほんとうに溌剌と活きている感じがする”と
 主人公は実感するのだ

 この解放感
 死の一年前の作品で
 そんな気持ちを抑えきれずにぶっつけている

 友達からの手紙
 これは一体どんな性格の手紙だったのだろう
 “勇ましいおたより 学生時代に帰った思いがしました”とあるが
 読み込めない

 その文章に続く
 “毎晩パンツ姿も凛々しく月光を浴びて多摩川の堤防の上を
 疾駆するあなたを考えるだけでも胸が躍ります”とは
 何と傑作ではないか

 その情景が目に浮かぶ
 「あははは」と笑ってしまう

 何とも小気味好い作品である 
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by hai-toku | 2014-01-19 15:08 | 注目 | Comments(0)